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サブプライム危機の必然性--異常ではない「異常値」が市場を支配するワケ

投資の科学 あなたが知らないマーケットの不思議な振る舞い

買ったきっかけ:
 「現実の世界は平均値でなく異常値に支配されている」という帯の惹句に誘われた。売らんかなの帯が目立つ昨今、珍しくうたい文句通りの内容。

感想:
 プロ、アマを問わず、主体的に資産運用にかかわるすべての人にとって一読の価値のある良書。ただし、コンベンショナルなファイナンス理論の大枠を理解しているという前提で。

 話題のサブプライムとの絡みを先に書くと。
 巷間「ファイブシグマにやられた」だのどうだのと言った言い訳が聞かれるが、ブラックマンデー(20シグマ相当!!)やLTCM危機、本邦でいえば03年の国債バブルと同様の、「千年、万年、億年に一度の異常値で損を出したのはしょうがない」という逃げ口上は聞き飽きた感がある。
 「理論的にありえない変動」による金融危機はなぜ繰り返されるのか。

=====
 標準的なファイナンス理論の多くは、株価の変動はベルカーブとして知られる正規分布曲線に従うと仮定している。(中略)しかし、正規分布をベースとしたファイナンス理論は、みかけはエレガントであっても、現実の世界をうまく説明できないという問題を抱えている。とりわけ「ファットテール」と呼ばれる、まれに生じる非常に大きな価格変動を説明するときには役に立たない。実際、リスクマネジメント理論がファットテールをとらえられなかったことが、いくつかの悲劇を招いた。(173P)
=====
 
 こうした指摘自体は珍しいものではない。
 本書と類書の違いは、データと理論を、一般読者にも分かるように噛み砕いて(ここ重要)解説していること。
 第二部の「投資の心理学」の、なぜバブルが発生するかという解説も腑に落ちるもの。95ページの「働きアリの旋回運動」の図だけでも、クレジットバブルに突っ走った滑稽なマネーの奔流を描写して余りある。

 文章も読みやすい。断言すべきところ、あるいは断言できる部分については、はっきり断言している点がすばらしい。日本の経済学者の本にありがちな留保条件を大量につけた奥歯にモノの挟まったような記述がなく、読んでいて気持ちいい。装丁もきれいだし、ソフトカバーなので読みやすい。

 以下のパラグラフは本書の内容ではなく、私見。
 サブプライムに限らず、ファイナンス理論が発達して以降の多くのバブルの発生と崩壊の根っこには、理論の本質的な欠陥と受託者責任という名の無責任がある。
 本書でも紹介されているが、実際の価格変動の分布は、ベルカーブとずれている。具体的には、小さな変動と、きわめて大きい変動が、理論値対比でより高い頻度で現れる。
 つまり、相場は「小動き」が基本で、たまに「大暴落(大暴騰は少ないのは経験的に分かる)」が起きる。
 これをオプション取引の視点でみれば、普段はボラティリティを売ることが儲けの近道となる。そしてそのいつもは儲かるポジションは、理論値より高い確率で起きる大暴落ですってんてんになるリスキーな代物でもある。
 サブプライム問題に引き直せば、「歴史的な低デフォルト率」がクレジットバブルはまだ続くという確率的な根拠をあたえ、レバレッジをかけてクレジットをロングするだけの安易なポジションが、受託者責任を全うした真っ当な運用手法としてまかり通る。
 ヒトのふんどしで相撲をとっているのだから、カネが集まるもっともらしい理由がつき、穴が空いたときに法的責任を問われない理屈が立てば、それでよし。ヘッジファンドのマネジャーなら、内心変だと思っていても、バブルの尻尾に乗り遅れなければ、成功報酬にありつける。
 で、間に合わず、あぼーん。
 横並びのVaRが03年の債券バブルと崩壊を招いたのも、まったく同様の構図。ITバブルもしかり。
 世界中のファンドマネジャーが、一見高度にみえるが穴だらけの現行のファイナンス理論に基づく受託者責任という免罪符に頼るかぎり、いつかバブルは再び繰り返されるだろう。

 本書に戻る。
 バブルの発生やファイナンス理論の危うさに重点を置いたが、それ以外にも読みどころは多い。
 回転売買は「どれだけ」損か(第7章)
 企業の成長力の源泉と寿命(第3部)
 投資と複雑系理論の関係(第4部)
 特に第4部の価格変動分布はフラクタルなシステムで「べき乗」法則に従うという理論は、恥ずかしながら初耳で、非常に興味深かった。

 最後に、68ページの印象的な部分を引いておこう。伝説のギャンブラー、プギー・ピアソンの言葉とか。
 「ギャンブルで大事なことは3つしかない。60対40の法則、資金のマネジメント、そして自分を知ることだ。そんなこと、どんな馬鹿でも知っているよ」

 自分のカネを賭けて勝ち続けた中卒のギャンブラーと、複雑怪奇なアービトラージストラテジーを振り回す博士号持ちのクオンツ系マネジャー。
 あなたなら、どちらを信じます?

投資の科学 あなたが知らないマーケットの不思議な振る舞い

著者:マイケル・J・モーブッシン

投資の科学 あなたが知らないマーケットの不思議な振る舞い

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投稿: お気に入りは合法ハーブ情報館 | 2010年12月10日 (金) 17時20分

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